甲状腺疾患について

甲状腺とは首にある蝶のような形をした臓器です。脳下垂体からの指令を受けてホルモンを分泌しています。甲状腺ホルモンは心臓や消化管など全身に作用し成長にも必要ですが、過剰であっても不足しても身体に影響を及ぼします。小児の甲状腺疾患は一般的に思春期時期に発症することが多いですが、成人になっても医療を受け続ける必要がある人も少なくありません。また、女性の場合には妊娠や出産、生まれてくる子どもにも影響しますので、注意する必要があります。甲状腺の腫れなど疑わしい症状がある場合には、すみやかに小児内分泌専門医のいる医療機関を受診してください。

甲状腺機能亢進症

甲状腺ホルモンが過剰に分泌される疾患の代表的な疾患は「バセドウ病」です。何らかのきっかけで甲状腺に対する抗体(自己抗体)が産生され発症します。一般には20〜40歳台女性の発症が多いですが、小児では思春期時期に発症することが多く、女児に多いです。症状としては甲状腺が腫れる、異常に汗をかく、食事を摂っているのにやせる、動悸がする、下痢、手が震える、そわそわしてじっとできない、眠れない、などです。眼球突出や物が二重に見える(複視)、まぶたが腫れるなどの眼症状をきたすこともあります。

治療は甲状腺ホルモンの分泌や作用を抑制する製剤を服用します。血中の甲状腺ホルモンが正常化し、原因である甲状腺の抗体が陰性化したら治療を終了します。小児の「バセドウ病」は薬剤が奏効することが多い一方で、再発が多く薬の服用を再開・継続する必要があったり、場合によっては甲状腺切除や成人以降で放射線治療に至る例もあります。

甲状腺機能低下症

甲状腺ホルモンの分泌が低下する疾患としては代表的なものとして「先天性甲状腺機能低下症」と「慢性甲状腺炎(橋本病)」があります。

先天性甲状腺機能低下症

生まれつき甲状腺の働きが弱くホルモンが不足してしまう疾患です。原因としては甲状腺がない(無形成)、小さい(低形成)、甲状腺が別の場所に存在する(異所性甲状腺)、甲状腺ホルモンの合成に問題がある、甲状腺に対して指令をだす脳の下垂体や視床下部に障害のあるもの(中枢性)など多岐にわたります。発生頻度は3000〜5000人に1人程度と推定されています。現在、日本では新生児マススクリーニング検査が行われており、症状が明らかになる前に発見されてしまうことがほとんどです。しかしながら新生児マススクリーニング検査で発見できないケースもまれにあります。

症状としては出生後の早期から元気がない、哺乳力が弱い、哺乳量が少ない、体重増加がよくない、黄疸が長引く、便秘、手足がつめたい、泣き声がかすれているなどの症状が現れることがあります。長期的には身体の成長や知的な発達が遅れてしまうことが問題となります。

治療は甲状腺ホルモン薬の内服を行います。甲状腺ホルモン薬の服用を継続すれば、普通の子どもと変わらない生活を送ることができます。ただし、甲状腺ホルモンの不足が一時的であるもの(一過性)もあれば、生涯治療を継続する必要のあるもの(永続性)の場合もあります。

慢性甲状腺炎(橋本病)

何らかのきっかけで甲状腺に対する抗体(自己抗体)が産生され発症します。一般には30〜50歳台女性の発症が多いですが、小児では思春期時期に発症することが多く、女児に多いです。症状としては身長の増加が悪い、疲れやすい、元気がない、肌が乾燥する、むくみがある、首が腫れる、などです。
治療は甲状腺ホルモン薬の内服を行います。甲状腺ホルモン薬の服用を継続すれば、普通の子どもと変わらない生活を送ることができます。