アレルギーについて
アレルギーとは、ウイルスや細菌といった外敵から身体を守るために人に備わっている「免疫システム」が過剰に働き、本来、身体に害のないものも敵とみなして反応することで様々な症状が引き起こされるものです。
当院では花粉症、アレルギー性鼻炎、食物アレルギー、アトピー性皮膚炎、気管支喘息(喘息)など、小児によくみられるアレルギー疾患を中心に診療いたします。またスギ花粉症やダニアレルギーに対する免疫療法として、舌下免疫療法も行っています。
花粉症
花粉症は植物の花粉が原因物質(アレルゲン)となって生じるアレルギー性疾患の総称です。アレルギー性鼻炎やアレルギー性結膜炎、花粉皮膚炎といった疾患が花粉症では現れます。花粉症は2~3歳のお子さんでも発症することは珍しくなく、年齢を重ねるとともに増加傾向にあります。
原因となる花粉やそれが飛散する季節は様々で、たとえばスギやヒノキの花粉は2月下旬~4月中旬、シラカンバやイネ科では4月下旬~6月中旬、ブタクサは8月下旬~9月下旬などに飛散するとされています。
花粉症の症状
花粉症の症状は、お子さんでも基本的に大人と変わるものではありませんが、鼻詰りや鼻をすすることが多くみられる傾向にあります。これはお子さんの鼻腔が狭く、鼻が詰まりやすいことによります。また花粉が付いた手で目をこすることにより、目が充血したり、目の周りがかゆくなったり赤くむくんだりすることもよくあります。またこうした症状で、夜によく眠れなくなると、昼間の集中力が低下したり、心身の発達にも影響したりすることがあります。
さらにお子さんの場合、花粉症を放置していると中耳炎や副鼻腔炎、喘息などを併発することがあります。これは花粉症が慢性的に続くと鼻の中の粘膜が厚くなって通り道が狭くなり、粘液が排出されにくくなって細菌が繁殖しやすくなるためと考えられています。また小さなお子さんは鼻と繋がる耳管がまだ水平なため、鼻の中の炎症が中耳まで進みやすく、中耳炎も引き起こされやすくなります。
花粉症の治療
花粉症が疑われる場合は、血液検査によるアレルギー検査で、どの花粉に反応するか調べます。反応する花粉の種類が分かったら、その花粉が飛ぶ季節には、外出から家に入る時にしっかりと花粉を払い落とし、手洗いやうがいをします。また鼻水やかゆみなどの症状には、抗ヒスタミン薬を用いる場合があります。しかし、お子さんの場合は特に花粉対策が難しいことが多く、年齢とともに症状が強くなることが多いため、原因がスギ花粉の場合は舌下免疫療法による治療が推奨されます。
食物アレルギー
食物アレルギーとは、特定の食べ物を摂取することによって引き起こされるアレルギー反応です。原因となりやすいのは、鶏卵や乳製品、小麦などです。しかし、最近では1〜2歳頃からナッツ類に対するアレルギーが増加しており、中でもクルミとカシューナッツが増えています。また、学童・成人期では甲殻類、魚介類、そば、小麦、果物、ピーナッツなどが原因になりやすいとされています。
食物によるアレルギー反応としては、じんましんやかゆみなどの皮膚症状がもっとも多く、まぶたや唇などの粘膜が腫れることもよくあります。次に多くみられるのが呼吸器症状です。咳やヒューヒューという喘鳴、呼吸困難等がみられます。また腹痛、嘔吐、下痢といった消化器症状が現れる場合もあります。さらに最重症例では、血圧低下や意識障害をおこすアナフィラキシーショックがありますが、乳幼児では稀です。
当院ではアレルギー疾患の中でも、とくに食物アレルギーの予防に力を入れています。
食物アレルギーの発症機序
近年、小児の食物アレルギーは赤ちゃんの皮膚でその素地が作られると考えられています。とりわけ湿疹があるなどバリア機能が低下している皮膚では、付着した食物などの分子が皮膚の深部に入り込みやすくなります。するとそこにいる免疫細胞が、入ってきた分子を体に侵入してきた異物と判断して、これを排除しようと免疫反応を起こします。たとえば卵であれば、卵に対する特異的IgE抗体が作られ、初めて卵を食べたときにそのIgE抗体が全身のアレルギー反応を引き起こすのです。
食物アレルギーの予防
食物アレルギーを防ぐためには、湿疹をしっかりと治療するなど皮膚の状態を良好に保つことと、卵などアレルギーを起こしやすい食物を早くから摂取することがポイントです。これは、赤ちゃんの腸の中には入ってきた抗原に対して免疫反応を起こさないようにするしくみがあり、それが食物アレルギーを予防すると考えられています。
当院では食物アレルギーの予防として、にしむら小児科の西村龍夫先生が考案された「ミックスパウダー」による微量投与をおこなっています。このミックスパウダーにはごく少量のメレンゲパウダー(乾燥卵白粉末)、小麦粉、粉ミルク(牛乳)、きなこ(大豆)、そば粉、ピーナツ粉が含まれ、このパウダーを生後4か月までに開始すると、食物アレルギーの発症予防に有効なことが分かってきています。
このミックスパウダーについては、2017年に多施設共同研究が行われ、当院も参加しました。その研究では、湿疹など食物アレルギーを起こすリスクが高いお子さんで明らかな予防効果が認められ、2022年に論文になりました(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35367136/)。既に食物アレルギーを発症されているお子さんに関しても、少量摂取を続けることにより耐性の獲得を促す(アレルゲンとなる食物を摂取しても症状が出ない状態になる)ことも行っています。
これまでは食物アレルギーと診断された場合、一定期間その食物の摂取を制限(完全除去)し、定期的に血液検査で特異的IgE抗体の値を調べ、それが下がってきたら負荷試験を行っていくというかたちで対応されてきました。しかし原因食物を完全除去することは、腸での食物アレルギーの抑制効果が発揮されず、アレルギーが治ることを妨げるだけでなく、さらに重症化させてしまう場合があります。
最近では完全除去ではなく、食べられる範囲で食べさせるという方向になってきていますが、ご家庭で少量ずつ摂取することは、なかなか難しいですね。親戚や家族に食物アレルギーや喘息、アトピー性皮膚炎などがあり、生まれた赤ちゃんの食物アレルギーが心配な方、また既に食物アレルギーでお悩みの場合は、お気軽にご相談ください。
アトピー性皮膚炎
アトピー性皮膚炎は強いかゆみを伴った湿疹が現れ、良くなったり悪くなったりを繰り返すのが特徴です。生後2~6か月頃に発症する場合が多く、思春期までに治まってくることが多いとされていますが、大人になっても症状が続くこともあります。1歳未満の乳児では2か月以上、それ以上の年齢では6か月以上、症状が続く場合に、症状や湿疹部位などの総合的な観点から、アトピー性皮膚炎と診断されます。状態などを把握するため、血液検査を行う場合もあります。
アトピー性皮膚炎の原因
アトピー性皮膚炎の原因については、まだよくわかっていない部分もありますが、近年、「皮膚のバリア機能の異常」「アレルギーによる炎症」「かゆみによる掻破(ひっかくこと)」の3つの要素が絡み合って発症するという考え方が主流になっています。
体質や様々な刺激の影響で皮膚のバリア機能が低下すると、異物(原因物質)が外から入り込みやすくなります。さらにそれらに対して免疫が過剰に反応すると炎症を起こし、かゆみの症状が現れます。そのため皮膚を引っ掻いて(掻破して)しまうと、さらにバリア機能の低下など皮膚症状が悪化し、炎症も悪化してかゆみが強まるという悪循環に陥り、アトピー性皮膚炎が慢性化してしまいます。
小さなお子さんでは皮膚のバリア機能が未発達の部分があるため、アトピー性皮膚炎を発症しやすいと考えられています。また皮膚が乾燥しやすい体質(ドライスキン)であることや、アトピー素因を持っていることも発症の誘因になると考えられています。アトピー素因はアレルギー体質であることで、お子さんまたはご家族がアレルギー性疾患(アトピー性皮膚炎やアレルギー性鼻炎、喘息、結膜炎など)を持っていること、アレルギーと密接に関係する免疫物質「IgE抗体」を作りやすい体質を持っていることを指します。
アトピー性皮膚炎の治療
アトピー性皮膚炎の治療の基本は、「適切な薬の使用」「スキンケア」「原因物質を遠ざける」と3つとされています。
まず薬による治療で炎症やかゆみの症状を抑えます。使用する薬としてはステロイド外用薬やタクロリムス外用薬、そして最近では新たな2種類の外用薬もあり、症状に合わせて薬の強さなどを調整し、適切に使用していきます。大切なことは最初のうちに湿疹をしっかり抑え込み、その後悪化させないように維持することです。また皮膚を清潔に保ち、乾燥を防ぐためのスキンケアも大切です。入浴やシャワーで皮膚表面の常在菌や汗などを流し、保湿剤で皮膚の水分が逃げないようにします。入浴やシャワーでは刺激の強い石鹸やシャンプーは控え、ゴシゴシと擦らずに柔らかい布や手で優しく洗うことが重要です。また、湿疹を悪化させる要因がある場合は、それを避けることも必要な場合があります。
アトピー性皮膚炎の治療は長期にわたる場合もありますが、近年では様々な有効な薬が新たに登場するなど、治療の選択肢も増えてきています。アトピー性皮膚炎の症状にお悩みの場合は、一度ご相談ください。
舌下免疫療法について
舌下免疫療法は、身体をアレルギーの原因物質(アレルゲン)に慣らすことで体質改善を目指し、アレルギー反応により発症する症状をやわらげていく免疫療法です。文字通り舌の下にアレルゲンから抽出した微量の薬剤を含むことで、効果が期待できるものです。
もともとこうした免疫療法は皮下注射によるものが行われてきましたが、舌の下の口腔粘膜が薬剤によっては吸収がよく、注射と違って家庭でも行えることから注目の治療法となっています。お子さんでも無理なく行え、副作用としての強いアレルギー反応も非常に稀であることがわかっています。
当院では、症状が強いお子さんには舌下免疫療法をお勧めしております。対象は5歳以上で、舌下内服ができるお子さんであれば可能です。
舌下免疫療法の対象
舌下免疫療法は現在、「スギ花粉アレルギー」と「ダニアレルギー」によるアレルギー性鼻炎が適用の対象となっています(現在ヒノキに対しても開発中です)。そのため舌下免疫療法による治療開始にあたっては、事前にアレルギー検査を行ってアレルゲンを特定します。一般的には、血液検査による「特異的IgE抗体検査」を行い、スギ花粉やダニに対応するIgE抗体の値が陽性であれば、スギ花粉やダニのアレルギーであると判断され、舌下免疫療法が適用となります。
舌下免疫療法の治療の流れ
血液検査でアレルギーの原因がスギ花粉かダニであることを確認されましたら治療を開始します。初回の服用は、強いアレルギー反応が現れないかどうかをみるため、外来にて院内で医師の監督のもと服用していただきます。服用後30分間は院内に留まっていただき、副作用が現れないかどうかを確認します。
2回目の服用からはご自宅で行っていただきます。1週間後に外来を受診していただき問題が無ければ服用の量を増やし、自宅での服用を続けるようにします。その後は1か月に1度程度、定期的に通院していただき、副作用の有無や効果などをチェックしていきます。
舌下免疫療法によるアレルギーの治療は、長期にわたって継続していくことで効果が期待できるものです。ただし、すべての患者さんに有効というわけではなく、約8割に有効、そのうち約2割は薬が不要とされています。治療期間としては3~5年が推奨されていますので、じっくりと根気良く、一緒に治療を進めていきましょう。その間もアレルギー反応に対する薬の治療なども行っていきますし、舌下免疫療法の効果により薬を減らしていくことも可能になります。もちろん、何らかの理由で継続できない場合は途中で中止することもできます。
舌下免疫療法の副作用
舌下免疫療法はアレルゲンを使用するため、服用後に口の中のむくみや腫れ、かゆみ、不快感、唇の腫れ、のどの刺激感や不快感、耳のかゆみなどが現れる場合があります。治療開始時に副作用が見られなくとも、一定量に達してから症状が現れることもあるため、何らかの症状が現れましたら、速やかにご連絡または受診してください。また、ごくまれにアナフィラキシーショックなど重大な副作用が起こることもあり得ますので、医師とよく相談し、医師の監督のもと行うことが重要です。