• 2025年8月17日

ワクチン接種に消極的な方へ

私たち小児科医は当たり前のようにワクチンをお勧めしますが、元気なお子さんの身体に異物を入れることに不安を持たれる方もおられるかもしれませんね。また、現在はワクチンで予防している病気がまわりにあまり見られなくなっているため、今でもワクチンをうける必要あるの?と疑問を持たれる方もあるでしょう。

そんな時にネットを検索すると、その不安を増強したり同調するようなサイトに出逢われるでしょう。ネットの情報は膨大にあるのですが、検索エンジンは利用者の興味や関心に合った情報が表示されやすくなるようにできているからです。これは「フィルターバブル」という現象ですが、自分と似た考えや情報に多く触れるようになるといっそうその考えが増強され、それ以外の考えや情報と触れにくくなっていきます。

ワクチンに否定的な方は、もうこれ以上読む気がしないかもしれません。でも、もし迷っておられる方は長文になりますが、もう少しお付き合いください。また、いつかお子さんがワクチンを受けてないことに不安を持たれた方は、いつでも相談に来てくださいね。

さて、ワクチンの歴史は1796年にイギリスのジェンナー医師が、8歳の子どもに天然痘ワクチンを接種したのが始まりとされています。天然痘ウイルスには2種類あり、強毒性の方は致死率が20〜50%と高く、人類にとって恐ろしい病気でした。しかし、ワクチンの普及によって流行はおさまっていき、1980年にはWHOにより地球上からの根絶宣言が出されました。

ワクチンに懐疑的な主張としては、以下の4つが主なものとされています(ファルマシア Vol. 55 No. 11 2019 から引用)。

①ワクチンを接種するよりも自然に罹る方が免疫がしっかりできる。

②ワクチンの接種によって重大な副反応が起こる(自閉症など)。

③ワクチンの効果が本当にあるのか実感できない。

④医師や製薬会社の陰謀によって、ワクチンを受けさせられている。

①については、麻疹、風疹、水痘、おたふくかぜなど、終生免疫(免疫が一生続く)を獲得する感染症では、自然に罹る方がワクチンよりも強い免疫を得ることができます。しかし、強い免疫が得られると同時に、重症化や合併症のリスクを背負うことになります。例えば、麻疹に自然にかかった場合、肺炎や脳炎で死亡したり寝たきりになるかもしれないことを覚悟しなければなりません。

②の代表的な例として、過去にMRワクチンが自閉症と関連があるという論文がランセットという著名な科学誌に出されましたが、その後多くの研究者の追試により両者の関連は否定されました。さらに、このイギリスの医師はデータを捏造していたことや、この研究でワクチン被害の訴訟に関わる弁護士から多額の報酬を受け取っていたことも判明し、論文は掲載を削除され、イギリスでの医師免許を剥奪されました。しかし、この嘘の論文により欧米でのMRワクチンの接種率が低下し、現在もまだ影響が払拭されていません。

実際に私自身もこれまで色々なワクチンを接種してきましたが、発熱や局所の腫脹などの軽度の副反応はあっても、重大な副反応は経験がありません。ただし世の中すべてのことに共通することですが、ワクチンにおいても「絶対に」安全ということはありません。低い確率ですが重篤な副反応が出る可能性はあります。しかし、それをはるかに上回るメリットがあるからこそ、現在のワクチンが接種されているのです。

③については、以前に使用された全粒子型の百日咳ワクチンの副作用のため一時中止になったことがあり、その後百日咳が流行して再び死亡者も増えましたが、改良されたワクチンの再開で患者数は減少しました。また、②で書いたMRワクチンについてのねつ造論文が発表されたことによってワクチンの接種率が低下し、欧米で麻疹が流行しました。

④についてはいわゆる「陰謀論」で、コロナ禍で活発になりました。感染症や社会の不安が高まると、一時的にせよその不安を和らげるものを求めたくなりますが、そういう時にはわかりやすい言葉や注意を引くメッセージに目が行きやすくなります。新型コロナワクチンについては、「ワクチンを接種すると不妊になる」、「ワクチンによって遺伝子が書き換えられる」など、他にもいろんなデマがSNS上で流れましたね。でも、こうした発信には科学的根拠は存在せず、子どもたちを怖い感染症から守りたいという医師や研究者などの献身的な努力を否定するものです。

現在は国内外の政治不安、地球温暖化に伴う異常気象、終わらない戦争など、不安材料には事欠きませんね。しかしこう時こそ、正確な情報を得る必要があります。そのためには、その情報にちゃんとした根拠があるかどうか、個人あるいは一部の団体だけの考えではないかという視点でみること、そして信頼できる複数の人に意見を聞いてみることをお勧めします。長文、最後まで読んでいただいて、ありがとうございました!

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